この想いを唄にのせて



「あ、いたいた。サクタ~スズキ見つけたか?」
「タヌキチ……」


 このタイミングで来るとは、良いんだか悪いんだか微妙だ。けれどそれがタヌキチらしいような気もする。


「お、いるじゃんスズキ。探すのに何分かかってんだよ、そろそろ練習しないと」
「う、うん。とりあえず部室行こう!そんでみんなに報告したいこともあるし!」
「何それ?」


 首を傾げるタヌキチの背中をぐいぐいと押しながら部室への道を歩き出した。


「サクタ部長!」


 後ろからスズキくんに呼び止められて、私はピタリと立ち止まった。


「書いてくださいね、絶対ですよ」


 そう言った声が妙に真剣で、目をそらした。

 部室に戻った後、残りの三人にスズキくんが新曲を作っていること、その為にセットリストを変えて新たに練習もしないといけないことを伝えた。それを聞いたミッチャンがついにキレて悪夢のような昔のできごとがプレイバックされた。
 思いだしたくもない黒歴史がまた一つ、更新されてしまったのだった。


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