また、部屋に誰かがいた
あまりのショックで夕食を食べることもできず、沙也加は部屋のなかで座り込み、震えながら泣いていた。
激しい動悸が止まらない。呼吸もつらくなってきた。
彼女の頭の中は悲しみと恐怖で混乱し、いまにも叫びたい衝動にかられていた。

「美亜…美亜が…」

いったい、彼女に何が起こったのか。
そして沙也加の身の回りで、この町で、何か恐ろしいことが起こっている。
体の震えはいっこうに止まらない。そのとき


「拾って…」

沙也加の耳に低い女性の声がする


「拾って…拾って…」

大きく目を開いたまま、沙也加の体は固まってしまった。

(なに…これ…?)

「拾って…拾って…」

女の声は続く。やがて沙也加の視界に黒い影が現れた。それは少しずつ彼女のほうへ近づいてくる。

「拾って…拾って…拾って…」

(怖い!怖い!怖い!怖い!)
いくらそう思っても彼女は動くことができなかった。

黒い影は、次第に大きくなり、彼女に迫る。

(やだ!やだ!やだ!助けて!助けて!助けて!)


心で叫んでいるのに声が出せず、体も動かせず、ただ、開かれたままの目から涙が溢れる。
しかし、そのときだった。

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