また、部屋に誰かがいた
「おかえり~」
リビングの扉を開けて5歳年下の彼女が顔を出す。
小柄で童顔なくせにストレートの黒髪だから下手するとまだ10代に見える。
「今日な~昼間、暑かったけ、ご飯食べんとアイス2つも食べたっちゃ」
そんな地元訛りの彼女に、頑固な関西人の僕は

せやったら…今日はアイスしか食うてないんか?

「うん!だから今チョコ食べとったんだがぁ」

スーツを脱いで部屋着に着替えてから、僕はキッチンの冷蔵庫を開け缶ビールを1本取り出した。
それを2口ほど飲んでから、テーブルで弁当を食べた。
ふと、以前に友人から聞いたセリフを思い出す。

「彼女と同棲するときはな、俺はなるべく俺の部屋やなく、彼女の部屋で住むようにしてんのや」
久しぶりに会えた居酒屋で焼酎グラスを手に彼は僕に言った。

「なんで?」
「別れた時に辛いからや」
「?」
「同棲を解消するときはな、出ていく方より、出て行かれる方が何倍も辛いからな」
「そんなもんかな…?」
「あほ!想像してみいや!出て行った後は時間が経てば少しずつ忘れられるけど、部屋に残った方は、その後も思い出の残る部屋で暮らすんやで!引っ越しでもせんと吹っ切れんやろ!」

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