また、部屋に誰かがいた
部屋に誰かがいた【開けるな!】
「お父さん!やめて!お母さんが死んじゃう!」
私は泣きながら叫んでいる。薄暗い蛍光灯の下。白い食器棚の横で母がうつむいたまま座り込んで泣いている。まだ小さな私の目線では見えないテーブルの上を父が「バン!」と両手で叩いた。
「俺に逆らうな!」
そう叫ぶと父は、座り込んでる母の頭を蹴った。
怖くて、怖くて、私は声も出ない。
でも、勇気を振り絞って叫んだ。
「お父さん!お願いだから、もうやめて!」
テーブル越しに立つ父が私のほうを見て言った。
「お前まで、俺を悪者にするのか?」
その目は恐ろしく、小さな私には怪物のように見えた父が、ゆっくりと私のほうに近づいてきた。
「やめて!子供には手を出さないで!」
母の叫び声が聞こえ、そこで私は夢から覚めた。
幼い頃の記憶から、度々同じ夢を見る。
しかし、いつも母が私を庇おうとして叫んだところで、その夢は終わる。
その後、私はどうなったんだろう?母は?父は?
夢の続きはわからない。



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