また、部屋に誰かがいた
「相馬さん、少し聞いてもいいですか?」
廊下を並んで歩いているときカケルは相馬に尋ねた。

「なんだ?」

「相馬さんは、どれぐらい死神やってるんですか?」

「もう3年くらいかなぁ…」

「これから死んでしまうひとのところに行くんですよね」

「そうだ。1週間で、その人の評価をして報告書にまとめ、その最期を見届ける」

「つらくなかったですか?」

「つらいさ。でも、たくさんの人生を見てきたおかげで、俺たちのような若く死んだ者にこの『用役』を義務付けている理由がわかった気がする。」

「どういうことですか?」

「ま、お前も、じきにわかるよ。明日は隣の3部の手伝いで東京都内から少し離れた場所まで行く。これが対象者の資料だから明日までに全部読んでおけ。」

カケルは自分のデスクに座ると相馬から受け取った資料を見た。
対象者の名前は「柳沢泰江」
年齢は71歳。夫と死別してから、関東地域の田舎町にあるアパートで一人暮らしをしている。
彼女には5人の子供がいるが、子供たちは皆、東京で暮らしていた。
資料には彼女のこれまでの人生や近況など、詳しい情報が書かれてあったが、
それを読み進めるうちに不思議と現在の彼女の心の中までもが、カケルに伝わってきた。
明日、カケルは相馬と彼女のところへ行く。
それは、その一週間後に彼女が「死ぬ」ということだった。

翌朝、カケルと相馬の二人は柳沢泰江が住む田舎町の駅前にいた。
そこから二駅ほどで地方都市の駅があり、そこへ通勤する者たちのベッドタウンといったところだろうか。

「俺たちは、基本的に対象者からも普通の人間にしか見えない。だが、対象者のなかには、たまに正体がわかるやつもいるから注意しろ。」

「いわゆる霊感の強いひととかですか?」

「ま、そういう人種だ。」

「わかりました」

その駅前を歩く人々に2人は普通の人間と変わりなく見えているようだった。
間近にすれ違うひと、テッシュ配りのアルバイトをしているものも、
まさか2人の正体が死神とは思わないだろう。


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