また、部屋に誰かがいた
明くる日もまた、朝から2人は逃亡を繰り返していた。
迫りくる黒い影の数は昨日より、さらに増えていた。

「玲奈!こっちだ!」

逃げる2人も4日目になって、かなり疲れていた。しかしなんとか、この黒い追手から、あと1日逃れられれば…
そう考え、自らに言いきかせながら、2人は走った。

そして、
その日も1日中逃げ回り、すでに夕刻近くになった。

しかし、いまだ走る2人の背後には20人くらいの黒い男たちが彼らを追ってきていた。
死神たちの目的は邪魔なカケルを捕らえ、玲奈の「予定」を誤差の範囲におさめること

「もう…だめ」
息を切らしながら、そう言う玲奈にカケルが叫ぶ。

「あきらめるな!」

しかし、玲奈の様子を見てカケルは、もう彼女が限界に達していることを悟った。
2人を追ってくる黒い影を振りかえり、カケルは立ち止まって玲奈に言った。


「玲奈!このまま走れ!決して振り返るな!止まるな!そして生きろ!」

「カケルさん!」

「行け!」

迫りくる黒い男たちに向かって、カケルは仁王立ちとなって立ちはだかり、そのまま彼の背後の玲奈に叫んだ

「行くんだ!止まるな!」

「………」

「玲奈!走れ!」

玲奈は思いを断ち切るように再び走り出した。

カケルは向かってくる黒い男たちに向かい一人、大きく両手を広げた。
そして、何かを決心したかのように、ゆっくり口を開いた。

一方、玲奈は走った。心臓のバクバクがおさまらない。
やがて、そんな玲奈の耳に背後のカケルの叫び声が聞こえた。

その声は



「俺は北高の鹿島や!名前知っとんのやったら失せろ!そしたら勘弁したる!向かってくるヤツは覚悟しいや!」」

「………!」

玲奈は思わず立ち止まって振り返った。

「…圭太」

「止まるな!行け!」

「圭太ぁ!」

「いいから!止まるな!走れ玲奈!走れ!」

「………」

カケルと黒服たちが揉み合っているのが見える。

「俺の…」

「…け…圭太…」玲奈の目から涙が溢れる。

「俺の…」

「圭太あああ!」





「俺の宝物に手ぇ出すなやぁぁ!」

黒い大きな渦が、まるで爆発でもあったかのように広がった。
そのうち多くの黒い帯が天に幾筋も伸びていき、街から黒い影が消えて行った。

カケルのその後は知れない。


やがて、1人駅前の広場まで辿り着いた玲奈を追ってくる者はいなかった。
「圭太…圭太…」玲奈はいつまでも広場に座り込んで泣いていた。


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