また、部屋に誰かがいた
そのとき、ふと振り返るとカメラを持っていた高村がいない。

「高村!」
僕は慌てて彼の名前を呼んでみたが返事がない。

「高村!ふざけんなよ!出てこいよ!」

てっきり、彼が僕を驚かせようとして隠れたのだと思ったが、彼はいなくなっていた。

軽いパニックになった僕が出口に向かって駆け出そうとしたとき、何者かに背後から口元にハンカチを当てられた。
そのハンカチが含んでいた薬品の匂いによって、僕は意識を失った。



いったい、どれぐらいの時間が経ったのか…
僕は意識を取り戻した。

恐る恐る、目を開ける。視界はぼんやりしている。
体は仰向けの状態で、頭だけ右を向いていた。薬のせいか体に感覚がなく、その状態のまま目を開けること以外は全く体を動かせない。

口も同じで、声も出せない。何とか手足を動かそうと試みたが…
やはり、感覚すらなく、それは無理だった。
たぶん麻酔のようなものが使われているのだろう。

(ここは…?)

訪れた建物の一室らしかったが、まだぼんやりする頭で考えてみても、全く、どこなのか分からない。
頭も右を向いた状態で動かせないので、僕の視界は限られていた。

しかし…その部屋には僕以外に「誰か」がいた。

「………!!」

視界がはっきりしてくると。僕の隣で、60㎝くらいの高さの台の上に仰向けに寝かされた人間と、その脇に立っている太った男の姿が見えた。
部屋の中が薄暗くて、その太った男の顔までは、よく見えなかったが、口元は笑っていて、

「ぶふふふ…」

気味の悪い笑い声がする。

その太った男の手は寝かされた人間の腹の辺りを触っている。

(何をしているんだろう…?)そう思った瞬間、
その太った男の手は血にまみれたピンク色の臓物を、そこから掴み出した。

それは、人間の腸らしかった。
おそらく、今「やつ」は人間の腹を切り裂き、両手でそれを腹から引きずり出している。

ぐちゃぐちゃ…と気持ちの悪い音を立て、腹から引きずり出される内臓を見て、僕は驚き、そして気持ち悪くなったが、僕の体は相変わらず動かすことができない。
まだ、ぼーっとする頭で、僕は気づいた。

(もしかして、あの内臓を引き出されているのは高村…?)

そう思ったが、仰向けに寝かされている哀れな被害者の顔はぼんやりとしてて、よくわからない。

僕より先に「やつ」に捕まった高村が隣で解剖されている…?!
…だとしたら…

高村は親友だったが、彼のことを可愛そうだとか心配する前に、僕の頭によぎったのは

(このままだと…次は僕の番だ!!)

「ぶふふふ…」
相変わらず気味の悪い笑い声をあげながら、太った男は内臓を掴み、それを血にまみれた両手で弄んでいる。

(逃げなきゃ!)

焦る心とは裏腹に、僕の体は全く動かせない。声も出せない。

(嫌だ!怖い!怖い!怖い!)

薄暗い部屋のなかで、太った男はぐちゃ…ぐちゃ…と不気味な音を立てている。

(助けてくれ!)



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