また、部屋に誰かがいた
なんとか新潟での再就職先も見つかり、定期的な訪問介護を頼みながら、彼女自身の手で母親の介護をしようと決心した彼女は最近、頻繁に見るようになった幼かったころの夢に悩まされていた。
たぶん、実家に戻り、その懐かしい雰囲気や匂いからであろう。

「すいません。ちょっといいですか?」
引き戸の向こうから佐和子を呼ぶ業者の声に
「はい。どうかしましたか?」
佐和子が答え、工事中の和室を覗くと、
「床下の地面にこんなものがたくさん置かれていましたが、どうしますか?」
そう言いながら床下から作業中の男が彼女に差し出したものは木彫りの仏像だった。

「たぶん隣の部屋の床下から並べれているみたいで、10体ほどあります。うち数体には『お札』のようなものが貼られているものもあって…」
それを聞いた佐和子の背中に冷気が走り、ぞくっとしたが、
「昭和50年代ころに建てられた家って、こんなことがあるんですか?」
そんな彼女の問いに工事業者の男は
「いや、こんなこと初めてです。どうします?ベッドを置く辺りの床下に鋼材で骨組みを組んで強度を高めようと考えていたんですが…」
そう尋ねられて佐和子は
「邪魔なものは取り除いていただいて結構です。予定通り作業を行ってください」
「そ…そうですか…、じゃあ、そうしますね」
不安げな表情で男は作業を再開した。



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