また、部屋に誰かがいた
そんな真奈美を最近、悩ませている「奇妙な状況」を初めて彼女が感じたのは3日前。
久しぶりに休暇がとれた彼女は親子で電車に乗って遊園地へ出かけた。
いつもは仕事帰りに保育園へ彩奈を迎えに寄ってから家に帰ると、健人が迎えてくれる。
まだ、幼くして小学校から帰る健人を迎えるのは、無人の家のキッチンに置かれた「おやつ」と仕事に出かけている母からの「メッセージ」だけ。そんな健人に寂しい思いをさせてしまっている罪悪感から、真奈美は休日には必ず、子供たちを連れて外出するように心がけていた。
そして遊園地で遊んだ後、三人で近所のファミリーレストランに行き、夕食を楽しんでから帰宅した。

彼女が住む家は新興住宅地にあり、昼間も静かなエリアだったが、夜となれば、さらに静けさが増していて、
まだ熱気の残る路上では、秋の虫の声も聞こえていた。昼間、はしゃぎすぎて疲れてしまったのか彩奈は真奈美の背中で眠ってしまっている。彼女の首筋に幼い娘の寝息を感じながら、長男の手を引き夜道を自宅へと歩いていた。
ようやく自宅に到着し、玄関に入る。しかし、そのとき彼女は言葉では表現できない、かすかな違和感を室内に感じた。
二階への階段脇にあるリビングへと繋がるドアが少しだけ開いている。

「確かに出かけるときは閉めたはずなのに…?」

さらにリビングの中に進むと、テレビの横に置かれた棚の引き出しも少し開いている。
普段、几帳面な真奈美がそんな状態にすることはない。
さらには、この日彼女は携帯電話を家に置き忘れてしまったのだが、棚の上にあったそれにも誰かが触ったような微妙な違和感がある。
まさか、外出している間に
「誰かが侵入していた?」

不安と恐怖に固まる真奈美に
「お母さん、どうしたの?」と健人が心配そうに尋ねた。
「ううん…なんでもないわ。今日はちょっと疲れちゃったね」
子供たちに不安な思いや心配をさせまいと考え、そう答える真奈美に健人は
「うん!でも今日は楽しかったね」と笑顔で答えた。

「健人か彩奈が開けて、ちゃんと閉めなかったんだろう」
とりあえず自分で自分を納得させたものの、彼女の釈然としない不安な思いは続いていた。

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