また、部屋に誰かがいた

2016

彼は立ち寄ったコンビニでレジの順番を待っていた。
レジには5人程度が並んでおり、ちょうどいまは20歳前後と思われる女性がスマホで誰かと話しながら会計をしている。小さなお菓子類を10点近くとペットボトルの飲料が2本に弁当と雑誌。品数の多さから時間がかかりそうだ。

「そうなのよ!ありえないでしょ!」

相変わらずスマホを耳につけて大きな声で会話している彼女の前で、店員がひとつひとつバーコードを読み取っている。

(くそ!ふざけた女だ。後ろでこれだけ他の客が待っているのに、気遣いがないのか!)
缶コーヒーとパンを手にして、彼はその女性に苛立っていた。

「2,155円になります」

「え?いくらだって?」
レジの表示を見ながら、バッグのなかの財布を探して右手でまさぐっているが、左手には、まだスマホを持って左耳に当てている。

「いま?いまコンビニ!ちょうどお金払ってるとこ。え?なに?周りうるさくて、よく聞こえないんだけど…」
そんなことを話しながら、彼女はまだ、財布を探していた。

「あ!あった!あった!」
やがて、バッグから財布を取り出して、会計をしながら

「いまね、財布見つかんなくて、焦っちゃった。そうなのよ!ウケるー」

スマホの相手に状況を笑いながら話す後姿を彼は憎悪の目で睨んでいた。
彼は手にしていた商品を棚に戻すと、店を出る女性客の後を追って、暗く蒸し暑い外に出た。


(あのクソおんな…許せない)

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