また、部屋に誰かがいた
島田莉緒は自宅最寄り駅のコンビニを出て家路を向かっていた。
今年、社会人となったばかりの彼女は駅を出てから、学生時代の友人に電話をかけ、愚痴を聞いてもらっていた。
入社前に聞いていた話とは異なり、会社を出る時間はいつも19時くらい。
結論も出ない打ち合わせを何度も繰り返し、だらだらと毎日遅くまで会社にいるといった印象を職場に対して抱いていた彼女は、それを友人に聞いてもらいたかったのだ。

その日も時刻はまもなく21時になろうとしていた。
残暑が厳しいため、アスファルトには、まだ昼間の熱気が残り、時折、吹く風も生暖かい。

「うん、ありがとう。愚痴聞いてくれて…、うん、うん、じゃあまたね。」

20分ほど話していた友人との電話を切り、コンビニの袋を左手に持ち直し、彼女は、夜道を家へと急いだ。
多少、車の通りもあった大通りから脇の路地に入ると、全く人気がなくなり、街路灯のみの道となる。道の両側には住宅が立ち並んでいるが、この時間の通りは暗く、静かだった。
スマホで話しているときは耳が塞がれていたため気付かなかったが、背後から足音がするような気がする。

(嫌だなぁ。気持ち悪い)

いまの時間帯を考えて、莉緒と同じくこの先に住む者が帰宅中に歩いていることは珍しくないし、こんなことは以前にも何度もある。しかし、そのたびに彼女は恐怖を感じていた。

(振り返るのは怖いし、変に意識してることを後ろに悟られるのも嫌だ)

そう考え、彼女が、やや歩く速度を速めようとしたとき、

ズン!

突然、彼女の背中に衝撃が走った。
何かがぶつかってきたような…。そして腰の上あたりに重く激痛が走る。

「え…、さ…刺された?」

訳も分からず、立ち尽くす莉緒の口を背後から伸びてきた大きな手がふさぎ、同じく彼女の前に伸びてきたもう一方の手に握られた怪しく光るナイフが彼女の胸部めがけ突き刺さる。

「………!」

それは、何度も、何度も。
助けを呼ぶ声も出せぬまま、絶命し、路上に倒れた彼女の体をそのままにして、黒い影はゆっくりと歩いて、暗闇に消えていった。

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