また、部屋に誰かがいた
「一般にサイコパスというと世間では冷血な殺人鬼を想像するひとが多いが、異常なまでの客観性と高い知能を備え、その多くは社会的に成功者が多い。だが、それゆえ一度、道を誤ると恐ろしい犯罪者となり得るわけだ。また世間では成長期に不幸な環境であったり、虐待を受けた経験から成人後に異常犯罪者になると言うものもいるが、それも私は無責任な想像の産物だと考えている。不幸な身の上でも真面目に生きているものは大勢いるし、虐待の連鎖などという考えについて、私は否定的な立場をとっている。サイコパスに加え偏執的な性格が伴ったときに犯罪者は生まれるのだが、私はこの異常犯罪者の発生は生まれ持った天性によることが少なくないのではないかと考えている。つまり『殺人者の資質』というものを生まれ持った者がいるということだ。」

空調が効かない蒸し暑い講堂で、東西大学の武田教授の講義に、ぱらぱらと席についている20人程度の学生のうち、真剣にノートをとっている者は半分くらいだろうか。
最前列に座って、この講義を聞いていた木島達也は教授の声が響き渡る席を見渡した。
彼は現在、この大学の院生で今講義をしている武田教授の助手を務めている。
彼はこの心理学という学問が大好きだった。
大学に進学してから初めて、この学問に触れた彼は知識欲と探求心に突き動かされ、これにのめり込んでいった。
その結果、両親の反対を押し切って、就職はせず、助手として大学にとどまる道を選んだのである。
かっての同級生たちは社会人となり、そこそこ経済的にも裕福になっていくなか、相変わらず彼はアルバイトをしながら教授の助手もこなし、大学のある都心から遠く離れた家賃2万円のアパートに住んでいた。

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