また、部屋に誰かがいた
「木島君、ここは君の部屋じゃないんだよ」
古いエアコンがうるさい音を立てる研究室内で、達也の私物が積まれた一角を指さしながら、武田が言った。
「すいません。」
「もう何日もここに泊まっているんだろう。たまには布団で、ゆっくり休まないと体に悪いよ」
「でも、ここからのほうがバイト先も近いし、いちいち帰るのが面倒くさくなっちゃって」
申し訳なさそうに言う達也に
「全く…君も変わり者だねぇ」と武田は縁なし眼鏡の奥の優しい目を細めて言った。
この研究室では様々な心理学に関する書物のほかに、最新の研究成果や論文まで読める。
ここで、それらを読み漁っていると時間が経つのも忘れてしまっていた達也は結局、泊まり込んでしまっていたのだが、
「風呂や洗濯とかは、どうしてるの?まさか…君…?」
やや顔をしかめて、そう尋ねる武田に達也は
「ご心配なく、教授のきれい好きは存じ上げてますから、洗濯は近くのコインランドリーでこまめにやってますし、風呂も駅の近くにある銭湯やネットカフェのシャワーを毎日利用してます」
「やっぱり…木島君は変わりもんだねぇ」達也のほうを向いて武田は再び大きく笑ってから、
「僕はこれから警視庁に用事があるんで出かけるけど、君もたまには帰って、ちゃんと布団で寝なさい」
黒い肩掛けの大きなバッグを背負いながら言った。
「教授、例の事件に関することですか?」
「ああ、追加の情報が得られたので、プロファイリングに協力してほしいと言われてね」
この3か月の間に、都内で発生している6件の殺人事件。
これは同一犯による連続殺人ではないかと考えられていた。
夜道を歩いている被害者を突然背後から襲い、ナイフでめった刺しにする手口が同じことや、それぞれの犯行時間前後に付近の防犯カメラに映っていた同じ人物。
一見、粗暴に見える犯行だが、有力な証拠や目撃が乏しく、いまだ容疑者もあがっていない。
「欧米では、加害者や被害者を社会学的見地や心理学によるアプローチによって分析し、犯人逮捕につなげる手法が常識となっているのに、日本ではまだまだ認知されていない。
不謹慎な考えだが、そんな考え方がこの事件によって、少しでも見直されればと思うよ」
「………」何も答えられなかった達也だったが、教授の意見に同感だった。
特に教授が提唱している「殺人者の資質」
もし、これが解明できれば、教育プログラムの見直し等により事件を起こさせないようにすることが可能になる。
心理学という学問に魅せられ、「犯罪心理学」を専門とする武田教授に師事するようになって、彼はそんな未来を想像していた。
「もう、1か月近くアパートには帰ってないし、教授がおっしゃるように今日は帰ろうか」
部屋の状態も気になったし、郵便物も届いているかもしれないと考えた彼は、その日は久しぶりの「我が家」に帰ることにした。
古いエアコンがうるさい音を立てる研究室内で、達也の私物が積まれた一角を指さしながら、武田が言った。
「すいません。」
「もう何日もここに泊まっているんだろう。たまには布団で、ゆっくり休まないと体に悪いよ」
「でも、ここからのほうがバイト先も近いし、いちいち帰るのが面倒くさくなっちゃって」
申し訳なさそうに言う達也に
「全く…君も変わり者だねぇ」と武田は縁なし眼鏡の奥の優しい目を細めて言った。
この研究室では様々な心理学に関する書物のほかに、最新の研究成果や論文まで読める。
ここで、それらを読み漁っていると時間が経つのも忘れてしまっていた達也は結局、泊まり込んでしまっていたのだが、
「風呂や洗濯とかは、どうしてるの?まさか…君…?」
やや顔をしかめて、そう尋ねる武田に達也は
「ご心配なく、教授のきれい好きは存じ上げてますから、洗濯は近くのコインランドリーでこまめにやってますし、風呂も駅の近くにある銭湯やネットカフェのシャワーを毎日利用してます」
「やっぱり…木島君は変わりもんだねぇ」達也のほうを向いて武田は再び大きく笑ってから、
「僕はこれから警視庁に用事があるんで出かけるけど、君もたまには帰って、ちゃんと布団で寝なさい」
黒い肩掛けの大きなバッグを背負いながら言った。
「教授、例の事件に関することですか?」
「ああ、追加の情報が得られたので、プロファイリングに協力してほしいと言われてね」
この3か月の間に、都内で発生している6件の殺人事件。
これは同一犯による連続殺人ではないかと考えられていた。
夜道を歩いている被害者を突然背後から襲い、ナイフでめった刺しにする手口が同じことや、それぞれの犯行時間前後に付近の防犯カメラに映っていた同じ人物。
一見、粗暴に見える犯行だが、有力な証拠や目撃が乏しく、いまだ容疑者もあがっていない。
「欧米では、加害者や被害者を社会学的見地や心理学によるアプローチによって分析し、犯人逮捕につなげる手法が常識となっているのに、日本ではまだまだ認知されていない。
不謹慎な考えだが、そんな考え方がこの事件によって、少しでも見直されればと思うよ」
「………」何も答えられなかった達也だったが、教授の意見に同感だった。
特に教授が提唱している「殺人者の資質」
もし、これが解明できれば、教育プログラムの見直し等により事件を起こさせないようにすることが可能になる。
心理学という学問に魅せられ、「犯罪心理学」を専門とする武田教授に師事するようになって、彼はそんな未来を想像していた。
「もう、1か月近くアパートには帰ってないし、教授がおっしゃるように今日は帰ろうか」
部屋の状態も気になったし、郵便物も届いているかもしれないと考えた彼は、その日は久しぶりの「我が家」に帰ることにした。