また、部屋に誰かがいた
達也が再び吉本家の前に着いたとき、ちょうど親子3人が出かけようとしているところだった。
気付かれないよう彼女たちを尾行しようか迷ったが、今日、何も起きないまま彼女たちがここに帰ってくることはわかっていたので、それはやめた。
その代わりに彼は無人となった家の周りを探り、家のなかに侵入できる場所を探した。
3日後に起こる事件について、誰が、なんのために、この家に押し入って親子を殺害したのか?その手掛かりとなるものが必ずここにあると彼は考えていた。

玄関脇から庭に入り、注意深く建物周辺を探る達也にとって、この家の敷地を囲む高い塀は、彼を隠し、その行動の助けとなった。
しばらくして洗面所の窓の鍵がかかっていないことを発見した彼は、そこから家の中へと入った。
洗面所から続く廊下の先に玄関があり、しんと静まり返っている。
リビングに入った達也は棚の上に携帯電話が置かれてあるのを見つけた。たぶん、忘れていったのであろう。
(これに気付いた彼女が帰ってくるかも…?)
そんな不安を感じた達也だったが、その携帯電話を手に取り、開いてみた。
彼も初めて携帯電話を持ったときは、このタイプであった。少しの懐かしさを感じながら、メニューボタンを押す。
幸いロックはかかっていなかったため、履歴やメールの内容を見たが、事件と関係ありそうなものはなかった。
念のため、その携帯電話番号をプロフィールメニューで確認し、メモをとると置いてあった棚の上にそれを戻した。
その後リビングのなかに事件に繋がるものを見つけられなかった達也は2階に上がった。階段を上ってすぐの部屋に入ると、そこは健人の部屋であった。小学生らしい机には黒いランドセルがかかっているが、子供部屋にしては片付いている。
しかし、その机の引き出し奥から達也は奇妙なものを見つけてしまった。
それはまだ幼い健人と彼の両親が写る写真。だが、母親の顔の部分を先の尖った何かで突き刺してある。
それは何度も何度も。

「なんだ?これは?」
9歳の少年が持つ心の闇に触れ、達也は背筋にぞくっとした冷たいものを感じた。
そんな彼が次に見つけてしまったものは黒いビニール袋。
小さく丸めたそれも、不気味な写真と同じ引き出しの奥にしまってあった。
それらは明らかに隠してあったと推測される。
そのビニール袋の中身はもうなくなっていたが、なにやら動物の匂いがする。そして、その匂いのとおり動物の毛が付いていた。

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