また、部屋に誰かがいた
意識を取り戻した達也は、やはり意識を失った研究室にいた。

慌てて見たスマホのニュースアプリでは、何も変わっていない。
以前と同じく、シリアルキラー吉本健人の記事に溢れ、森下侑里は、その8番目の被害者だった。

「どういうことだ?何も変わっていないなんて?」

確かに、彼にとって想定外だった事態が続き、結果は彼の計画とは大きく異なるものとなった。
しかし、前回のように、たった1枚の選挙ポスターを破り捨てたどころではない様々な影響を与えうる行動を今回起こしてきたはずだ。それなのになぜ2016年の現在に全く変化がないんだ?
そう思った達也だったが、しばらくして「あること」に気付く。


彼は慌てて研究室を飛び出し、彼のアパートへ向かう電車に乗った。
そして駅に着くとアパートへと走り始めた。

(もしかしたら…全ては「予定どおり」だったんだ。俺が2001年へタイムスリップすることも、あの夜のことも…!だとしたら…俺がしたことは…)

侑里が殺害されたあの日の朝に、そこを出てから、達也は帰っていなかった。侑里との思い出に触れて、悲しい思いをしたくなくて、避けていた。

だが、もし達也の恐ろしい想像が真実であったなら、あそこに…。

アパートに着いた彼は自分の部屋に向かう。
ポケットから鍵を取り出し、入口のドアノブに手をかけた。

(侑里が殺されたのは偶然じゃなかった。そして「やつ」は侑里を殺害した後、証拠を捨てることもなく、なぜか、この付近にいた。それは…)

ドアを開け、部屋の中へ入る。目に入った床には血の跡が…。


(だから…、車の中の「やつ」は、俺に向かってニヤリと笑ったんだ…)

部屋の奥へと進んだ彼は、壁に書かれた文字を見た。




「あのときのしかえしだ」






全てを悟った達也の脳裏に、侑里の笑顔が浮かぶ。
そして残酷な運命のいたずらに翻弄されただけだった自らを呪い、嘆いた。

うわああああああああああああああああああ!







「部屋に誰かがいた」






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