初恋のお兄さんと私
七海先生は、道場に近付くと、物陰から見守るように中を覗いている。
その表情は、なんだか愛しい人を見ている眼差しだった。
嫌な予感がして後ろからそっと近付くと、その視線の先には顕奘さんがいた。
この前みたいな、綺麗なお兄さんではない。本物の女性だ。
私は思わず強ばりそうな顔を押し隠すと、何ごともないように声を掛けてみた。
「なにしてるんですか??」
けれど、自分でも驚くほど、刺々しい言い方になっていた。
一瞬、背中でビクリとするが、笑顔で取り繕う。
「な、なんでもないわ。練習、大変ね」
そして、私が気付いていると思っていないのか、わざとなのか。もう一度、顕奘さんに視線を移すと、そそくさと去った。
「頑張ってね」
去り際に取って付けたように言ったけれど、それは私にではなく顕奘さんに言ったようにも見えた。
結局、道場に戻ったけれど、そのまま稽古はさせてもらえず、みんなの後ろで正座して見学になった。