初恋のお兄さんと私

あっという間に手懐ける。
接客の躾もされているのですぐに寄ってくるが、新客が来るたびに歓迎しにいく。


先客も数組いた。
ほとんどカップルだ。


子犬と戯れる私可愛いでしょ、アピールと、それを眺めつつ、俺にも懐くんだよ、邪なことはしない、いい人だからね、アピール。


悪く言えば、それぞれに目論見があるかも知れない。純粋に犬好きで行く人間が何人いるのだろう。


そう言いながら私も犬好きだ。
それなりに寄ってくる。


けれど、七海先生のはしゃぎ振りに、なんとなくテンションが下がっていた。


「愛芽ちゃん、愛芽ちゃん、ほらほら」


胡座をかいて、膝に乗って来たミニチュアダックスを撫でて、楽しそうにはしゃぐ七海くん。
血筋だ。


ふと、向こうの壁にもたれてなんとなく不機嫌な顕奘さんが、立ち上がってこっちに来る。


「出るぞ」


「な、何言ってるんですか!?今日は僕とデートしてるんですよ!?」


見上げて怒る七海くん。
舌打ちすると、


「いいから、来い」


私の腕を掴もうと近付いた。



< 57 / 80 >

この作品をシェア

pagetop