初恋のお兄さんと私
「………あ、あのう、どちら様??」
恐る恐る声を掛けてみる。
テレビとかでよく見る、借金取りかと思ったが、うちには縁のない話だろうし。
女子高生が声を掛けるには、かなり勇気のいる相手だけれど、ドアの前で立ちはだかり、家に入れない。
オジサンはムッとして私を嘗めるように見ると、ボソッと言った。
「たかが10年、会わねえだけで、忘れちまったか、情けねえ」
サングラスを外すがまだわからない。いやむしろ、初対面のような、などと口が割けても言える空気ではない。
近づき、顔がこわばる私に留目を刺す。
「昔は可愛かったのになあ。大きくなったらお嫁さんになるから、待っててね、だったかな」
一瞬で頭に血が上る。
「け、顕奘さんにしか言ってないこと、何であんたが知って…ってまさか!?」
「やっとわかったか、ニブ子」
「ニブ子って何よ!?」
「まだまだあるぜ??ちび子、アホ子泣き虫」
「もう結構です!!」
慌てて遮る。果てしない自分の悪口をぺらぺらと!!
そして私のパーフェクトヒューマンなお兄さん像は、無惨にヒビ割れ、パリーンと音を立てて崩れ落ちた。
背中を向けて号泣するしかない。
あははははと羽が生えて飛び去った。『さよーならー』だ。
お構いなしに、痺れを切らせた顕奘さんらしい男は、手を差し出す。
「鍵っつってるだろ、出せ早く」