初恋のお兄さんと私

「…彼氏とかできたのか」


「うん、そうね…クラスの男子」


嘘だった。けれどこれくらいの嘘を付かないと気が済まなかった。


「ああ、そうだ、洗面も借りるぞ」


「えっ?!ああ、…はい」


何だかいちいちビクビクする。


と、お風呂のシャワーの音がした。


「いや、せ、洗面って!!」


慌てるけれど、もうお風呂の中で、声も掛けられないし、届かない。


「あ~、さっぱりした!!」


10分くらいで出た顕奘さんは、その辺の棚から勝手に出したバスタオル片手に、髪を拭きながらリビングに戻る。


ソファから座って振り向き、ドキッとする。


上半身、裸だった。


「実は昨日から風呂に入れてなくてな」


「なな!?何か着てよっ!!」


赤くなって慌てて目をそらすと、


「気にするな、減るもんじゃなし」


「い、一応、女の子の前ですっ!!」


「そうだっけな」


タオルを首に掛けたまま、ニヤニヤする。


「…な、なに…」


ソファの隅に追いやられ、目のやり場に困って泣きそうになる。お風呂上がりの温かい肌が触れそうになる。


引き締まった腕や胸板、腹筋があらわになっている。半乾きの髪から滴が落ちた。



< 9 / 80 >

この作品をシェア

pagetop