一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 私の中で天秤が揺れている。


 いっそ成瀬に抱かれても構わないと思う自分と、そんな関係になりたくないと思う自分。


 どうすればいいのか混乱の渦の中、私はようやく言葉を紡いだ。

「と、泊まるのは構わない。でも……手出ししたら叩き出す」

「…………ですよね」

 沈黙の後、成瀬は呆れ笑いをしながら何度か頷いた。

「それでこそ先輩だ。軽くへこんだけど、先輩のそういうとこが好きだから、まあ、仕方ないか。じゃあ、隣で寝るのは?」

「まあ、それは構わない。雨も降り出したし床だと冷えて風邪でも引かれたら面倒だし」

「よかった。じゃあ、シャワー借りてもいい?」

「いいわよ」

「置いてくれているスウェット借りてもいい?」

「どうぞ」

「じゃあキスしてもいい?」

「どうぞ――じゃないわ!!」

 何をしれっと挟み込んできてるのか!

「あれ、引っかからなかった~」と脳天気に笑っている成瀬に、溜息がこぼれた。

「なんなのよ、もう……」

 呆れて、それから私は成瀬と一緒になって笑った。
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