一寸の喪女にも五分の愛嬌を
『柴崎さんさ、今日の帰りってちょっと時間ある?』

「時間ですか? 残業ということでしょうか?」

『いや……ちょっと話したいことがあって』

 いくらか歯切れの悪い言い方に、私は気がつく。

(あ、総務課の光元さんの件かも)

 研修の件から外れ、今は他部署と関わりの薄い仕事を主にしている私が、彼と接点があるとすれば、そのことしか思い至らない。

「わかりました。終業時間に総務課に伺えばいいですか?」

『いや、えっと……じゃあ外で話そうか。食事でもどうかな』

「食事ですか……」


 正直、面倒だと思ってしまった。

 成瀬とならば楽しいと思えた食事も、他の人とならば、やはり面倒だと思ってしまう自分に苦笑する。

 この社交性の欠片もない面倒臭がりな性分は、前の彼氏と別れてから、交友関係を極端に減らした弊害かもしれない。


 言いよどんだことを素早く察知したのか、受話器の向こうで早川さんが笑った。

『ああ、外で二人だと気にしてしまうかな。じゃあ、第二会議室を借りておくから、そこでいいかな』

「お気遣い申し訳ありません」

『いやいや、こっちこそ気がつかなくてごめん。今は妙な噂を立てられたくない時だよね』

 それから「じゃあまた後ほどね」と爽やかに早川さんは通話を終えた。
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