一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 ドラッグストア店員一押しの風邪薬のおかげで、朝の時点よりもかなり体が楽になってきた。

 朝礼が始まる時には、頭痛と喉の痛みはかなり和らいでいた。ただ体のふらつきは少しだけ残っていたが、それは気合いでやりすごせそうだった。

「先輩、ちょっと今いいですか?」

 経理に提出する書類を作成していると、数字がぼやけふわふわと浮いているようで仕事にならないな、と思っている時に成瀬に呼ばれた。

「はい、なんでしょう」

 ニコリと笑顔を浮かべた私だったけれど、昨晩着信を無視したことの成瀬に対しての罪悪感で、声が少しうわずってしまった。


 どうしてあんなタイミングで連絡してきたのかは気になっていたけれど、あの時は誰とも話したくなかったのだ。

 そして、今も成瀬と話すのはなぜか気が引けてしまっている。


「あの、少しご相談が……いいですか?」

 彼の手にセミナー関係の書類が握られているのを見てホッとする。

 昨晩のことを追求されるわけでもなさそうだと安心していくらか強ばっていた表情を緩めた。

「何か不明点がありますか?」

「はい、この件について教えていただきたくてまとめておきました。目を通していただけますか?」

 資料の中から一枚の紙を手渡して来た。

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