一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「ごめん……まあいいわ。飲みたいなら飲んでから帰ってね」

 手にしているビールを成瀬の缶に軽く当てると、成瀬も軽くコツンと当て返した。

「しかし、淑女の柴崎先輩がこんな人だったなんて驚きました。意外と男っぽいというか、なんというか」

「否定できないわね。でも会社では誰だってそれなりに猫被って仕事してるでしょ」

「確かにね。受付嬢の方々なんかはその最たるものですけど、先輩も相当ですよね。まあ、俺にとっては嬉しい誤算でしたけど」

「何が嬉しいのよ? こんな本性の女だって弱みでも握ったつもり? それならお門違いね。別にバレたって気にしないわ」

「その恋愛ゲームにはまっているのも?」

 問われて顔をスマホから引き上げる。

 成瀬としゃべりながらも、私はずっとゲームを進めているのだ。

 眉根を寄せた私は、思い切り不機嫌な声が出てしまう。

「確かにあまり知られたくはないけど、これを弱みとして使われるほど私は安くないわ。言いたければ言えばいい。私の価値は何も変わらないから」

 そう言い切った途端、成瀬が手を伸ばして抱きついてきた。

「な、何してんのよ! 離れなさい」

 叱った私を、成瀬はますます抱きしめる。

「うん、先輩いいね。俺、気に入りました。俺とちょっとつきあいませんか?」

 弾む声の成瀬とは正反対に、私の心は冷えていく。


(馬鹿じゃないの、こいつ)


 呆れたというよりも、血の全てが冷え切っていくほど冷たい目をしてしまった。
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