一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 この外見に、一流企業の営業職。きっとモテてきたことだろう。

 女なんて自分が誘えば誰だって尻尾振って受け入れるとでも思っているのか、気安く抱きしめたりして、本当に馬鹿だなと呆れてしまう。

 こういう軽い男なら、想像した通りの女性絡みでの人事異動かもしれない。


(……そういうの、一番軽蔑する)


 私は成瀬の体をむりやり引きはがし睨み付けた。

「気安く触るんじゃないってさっきも言ったでしょ。付き合う気なんかさらさらないし、そういうの本当に軽蔑するから」

「え? なんでですか? 俺のこと気に入らないですか?」

 驚いたように聞いてくる成瀬は、きっと自分に自信があるのだろう。

 その姿が、昔の彼氏に少し似ていて、いくらか苦いものがこみ上げ、それを払うようにクッと口元を引き上げて笑った。

「あんたを気に入るとか気に入らないとかそういことじゃない。社内恋愛なんてまっぴらなの。それに今は二次元だけで満足。三次元は必要ない。彼女が欲しいなら他を当たりなさい」

 言い切った時の成瀬のポカンとした表情は、笑えるほど幼く見えた。

 たった二歳の差なのに、こんなに違って見えるのは、男とはいつまでたっても少年なのかもしれない。


(あいつも……そうだったもんね)


 また思い出してしまった、二年前に終わった恋の苦みを。


 フッと小さく息を吐き出し、蘇りそうになる思い出も吹き飛ばす。

 今まで思い出さないようにしてきた苦い記憶を引きずり出したのは、それもこれも目の前の成瀬のせいだ。
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