一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「部屋に男がいるのが久しぶりだから、いらないことまで思い出した。気分悪い」

「え、気分悪いですか? 水、持ってきましょうか?」

 立ち上がりかける成瀬に「そうじゃないから」とまた苦笑する。

 つまみのさきいかを成瀬に差し出しながら、私も口に放り込む。

「先輩、こんな時間に食べたら胃に悪いし太りますよ。美容のためにもやめた方がいいです」

「いいのよ、どうせ現実世界なんてどうでもいいし。美容とか気にしてない」

 それは少しだけ強がり。

 確かに現実の男などどうでもいいけれど、それでも自分を少しでも良く見せたいのはなけなしの女心。積極的に何かをするわけではないけれど、見苦しくないようにはしていたい。

 我知らずさきいかへ伸ばした手を途中で止めると、クスッと成瀬が笑う。

「何?」

 きつい視線を向ければ、成瀬は口元を押さえて視線を落とし、ビールを口に含んだ。

 一口飲み終えてから、成瀬はじっと私を見つめて言った。

「先輩……可愛い」

「はあ!? あんたの目は節穴どころか落とし穴だったんだ。夜中にビール片手に恋愛ゲームをしてさきいかをむさぼり食ってる女が可愛いとか、目が腐ってるのか、はたまた脳みそが腐ってるのか、どっちなの?」

「それがいいんですよ。ねえ、付き合ってくださいよ」

 ほとほと呆れかえる。

 憶測だけれど、女性関係で異動してきて今は女がいないのだろう。だからどんなゲテモノでもいいと思っているのか。なんという男だ。
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