一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「引き抜きですか?」

「いえ、引き抜きならばそれは我が社よりも好条件だったまでのこと。残念ではありますが、もっと社に魅力が必要だったと納得もします」

 それよりも、と有馬取締役は厳しい顔つきで続ける。

「どうやら悪条件で引き抜かれていることがわかっています。規模も小さく賃金も安く買いたたかれているというか……。とにかく我が社が育てた大切な社員が、自分の意志でない悪条件を選ばざるをえないことに憤慨していたんです」

「そんな……なぜ、悪条件で?」


 優秀な社員が引き抜きにあうことは、多いとはいえないがなくはない。

 けれどそれは好条件を提示することで、互いに合意をしてのビジネスのはずだ。

 なぜそんなことが、しかもたった一年半で四人もの社員が?


「不思議そうな顔をしていますね。けれど柴崎さん、あなたも転職するつもりだったのでしょう? たとえ好条件でなくても」

「ええ、それは……私の場合は特殊と言いますか、社内での立場が悪いと言いますか……」

 歯切れ悪くなる私に、有馬取締役は「それです」と大きく頷いた。
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