一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「辞めた四人も大小の差はあれど、浮気容疑やちかん容疑、万引き疑惑などの噂をまことしやかに広められ、結局居づらくなり辞めようとなる。そこに転職の誘いがタイミング良く持ちかけられる」

 つまり、悪い噂が流布するように仕向け、そこで条件は悪くなるけれど、転職を紹介する。

 引き抜きのように高給を提示できない会社にとっては、それなりの給与で優秀な一流社員を投資なしで手に入れられるという、とても美味しい話だろう。

 そこに斡旋をする人がいれば、当然なにがしかのお金が発生している可能性は大いにある。

「まさか、それに稲田さんが関わっていると言うのですか?」

 驚きが大きすぎて緊張とは違う汗が浮く。まさか自分の言ったことで、稲田さんが疑われているのかもしれない。

「今までは誰が転職を斡旋したのかわからなかった。辞めた社員は口を閉ざしている、というか我が社での辞め方がトラウマなのか、関わらないで欲しいと言われ、転職を勧めてくれた相手を神のようにさえ思っているからね。けれどあなたの件でようやく見つけました。確証を得た、と言うことです」

「そんなこと……今回は偶然です。私は稲田さんと同じ課で、それに親身に話をしてくれていたから、そういう話が出ただけです。彼女を疑うのはやめてください」

 あの大人しい稲田さんがそんな後ろ暗いことをしているはずがない。

 何をバカなことを言い出すのだろうと慌てる私に、成瀬が「先輩」と隣から声をかけてきた。
< 192 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop