一寸の喪女にも五分の愛嬌を
(憐れな女の末路……なんて惨めなの) 


 彼氏が親友に奪われた時にもイヤというほど突きつけられた惨めさ。

 またもう一度この苦みを味わうことになるなんて、やはり喪女が思い上がったせいだ。


 ゆるゆると立ち上がりエレベーターの壁にもたれ天井を仰ぎ見る。

 埋め込みのライトが私を照らしているけれど、まるで暗闇の中にいるようだ。


 狭いエレベーターを降りてすぐ、私は課長の元へ行き早退を願い出た。

「うんうん、色々と大変だったもんね。風邪もまだ抜けてないだろうし、今日はゆっくり休んでちょんまげ。また明日からガンバルンバ!」

 昭和おやじのノリに、ガクーッと膝から崩れそうになる。

 違う意味でヒットポイントががっつりと削られた。

(何がガンバルンバなのよ! もう明日から来る気ないっての)

 けれど課長を見ていてふと思う。

 今回の引き抜き騒動で一番大変な思いをしていたは、やはり人事課であり、課の責任者である課長だろう。

 きっともうかなり前から内々に調査をしていたと思われるし、そのことに人事課の課長が噛んでいないはずはない。

 しかもその結果、課内で辞めようという社員が出てきて、更に黒幕と目されている社員が部下だったなんて、どれほどの心労が彼を襲ったことだろうか。

 半分危なくなっている彼の頭髪を見つめながら、なぜか急に泣けてきた。
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