一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「柴崎(しばざき)君、ちょっといいかな」
課長に呼ばれた時、イヤな予感はしたのだ。
こうして呼ばれることはしょっちゅうだが、なぜかその時は予感があった。
(あ、何か面倒くさいことを頼まれそうだ)
課長はデスクの前に立った私をチラリと見上げてから、こう言った。
「来週から新しい人が入るんだけどね。福岡の支店で営業をしていた人なんだが、この人事課は初めてだから、柴崎君が指導してもらえるかな」
今は六月だ。
今日も雨で辺りは湿気に満ちている。湿度計は置いていないが、空調がなければ八〇パーセントは越えていそうなジメジメ度だ。
(この中途半端な時期に? 部署変更で?)
どう考えても何やら面倒くさい案件にしか思えない。
何かをやらかしてしまったとか、問題が起きての急な対応に思えてしまう。
「いいかな、柴崎君。まあ君が一番の適任だからね」
いいかな、なんて聞き方をしているが、これは決定事項で拒否権なんてあるわけがない。
だから私は頭を下げて「わかりました」と返事をするだけだ。
いつものように愛想良く、にこっと笑いながら問いかける。
「この時期の異動は珍しいですね。どんな人なのでしょうか?」
「なんでも営業で相当優秀だったらしいよ。ええっと、名前は――」
そこから私の生活が一変するとは、その時には知るよしもなかった。