一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 大きな溜息をこれ見よがしに吐き出して、私は成瀬を睨み付けた。

「あ、の、ね」

「はい」

 クッと軽く首を傾げるだけで、成瀬は得も言われぬほど魅力的に見える。

 三次元の男なんて興味ない私でも一瞬見惚れそうになるのだから、普通の女子ならあっという間にフォーリンラブだろう。

 それこそよりどりみどりのはずだ。

「あんたもさ、誰でもいいのなら今日いた受付の子にしておきなさいよ。若いし美人だし自慢できるよ? あの子たちを狙っている男性社員も多いんじゃないの? 興味ないから知らないけど」

「誰でもいいわけないじゃないですか。先輩だから言ってるんですよ」

(うん、それナンパ男の常套句だよね)

 おまえだけだとか、おまえ以外はダメだとか、そんなことを平気で口にだす奴ほど信頼できない。

「はいはい、わかりました。まあそれは置いといて、そろそろ帰りなさいよね。私もあと秀吉と話したら終わりにして寝るから」

「あ、それでしたら今夜は泊めてくれませんか? 明日は休みだし雨も強くなってきてるし。お願いします」

「……頭に悪い虫でも湧いてるんじゃないの? それとも聞き間違い?」

「いやあ、お酒も入ってるし、もう帰るの面倒じゃないですか。泊まるくらいいいじゃないですか。お構いしないでいいですから」
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