一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「その代わり、一切触るな。ちょっとでも触れたら即座に叩き出すから。あんたの財布は抜き取って無一文で放り出すから」

「ちょ~厳しい! でも了解です。あ、ちょっとだけ抱きしめて寝るのはOKっすか?」

「OKっすじゃないから。頭おかしいでしょ、あんた。ああ、あんたが寝るのは床ね、床。お情けで掛け布団だけは貸してあげるわ」

 アプリを終了した私は、改めて考える。

 泊まることを許可したけれど、成瀬はスーツで寝るつもりなのだろうか。
 それとも下着で寝るつもりなのか。

 んんん、と思案してから、クローゼットの奥の奥にある紙袋を取り出す。

 もう二年前にしまい込んだまま、一度も触っていない紙袋に指先が触れた途端、ピリッと小さな痛みが胸に走ったが、気づかないふりで取り出した。

「成瀬、これ使っていいから着替えたら? スーツじゃ寝られないでしょ」

 ポンと投げて渡すと、成瀬は片手で器用に受け取る。

 ガサガサと袋の中身をあらためた成瀬が物問いたげな眼差しで私を見上げてきた。

 中には男性物のスウェットの上下が入っている。


「先輩……これ……男物……」


 まさか、と呟いた後、こうのたまった。

「もしかして先輩は実は男で――」

「ないからね。一応こう見えても女だから」

 いくらおっさん臭いといえど、まさかここで性別詐称の疑いをかけられるとは予想外だった。

 失礼なことを言い出した成瀬に、私は肩をすくめる。
< 22 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop