一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「昔付き合っていた人に買ったんだけど、渡す前に別れたから新品よ。あんたにあげるわ」

 捨てよう捨てようと思いながら、クローゼットの奥に押し込んだままになっていた代物だ。成瀬が使ってくれるのなら、スウェットも浮かばれるだろう。

 成瀬は少しだけ唇を尖らせて、拗ねたように言った。

「彼氏のお下がりですか? ちょっとシャクだな」

「お下がりって……新品よ。それがイヤならスーツで寝るか出て行くか、どれでも好きなのを選んだらいいわ」

「あ、これお借りします」

 即答した。

「借りるとかじゃなくてあげるから」

 これを買った日のことが蘇ってきて、私は目を閉じる。


 この部屋の合い鍵まで持っていたあの人は、今頃可愛い彼女と過ごしていることだろう。

 優しいけれど少し気の弱いところのあった人だから、気の強い私とはウマが合っていると思っていたのに、それは自分だけの思い込みだった。

 まるで道化師のようだったあの日が、痛々しいほど鮮明に蘇る。


「……まあ、私はシャワーを浴びてくる。成瀬は入る?」

「借りてもいいんですか?」

「この湿気の多い時期にシャワー貸さないなんて鬼畜なことはしないわよ。先に入る?」

「俺はビール飲み終わってからでいいです」

「そ? じゃあお先に」

 飲み終わったビールの缶をキッチンの流しに運ぶ私に、成瀬は笑う。

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