一寸の喪女にも五分の愛嬌を

「めちゃくちゃ……お腹が空いた」

 目が覚めての第一声が、全く可愛げのないものだったことに成瀬は盛大に噴き出す。

「笑ってるけどね、ずっと何も食べてなかったんだからね」

 唇を尖らせた私の額に、成瀬は軽くキスを落としながら頭を撫でる。

「はいはい、コンビニまで走れってことですよね。適当に買い出してきますけど、シャワーだけ使わせてもらいますね」


 今は朝の六時前。昨夜降っていた雨は上がっているようだけれど、分厚い雲に覆われた空のせいで辺りは薄暗い。

 起きた時に成瀬がまだ側にいてくれたことに驚くほど安心し、私は眠りの中にいる彼に抱きついた。

 すぐに目を覚ました成瀬は、緩く瞼を持ち上げつつ柔らかな笑みを浮かべた。


「おはよう、薫サン」


 今まで見たこともない甘く蕩ける微笑みに、年甲斐もなくときめいたしまったことは内緒だ。

 そしてそんな自分を隠すように放った第一声が、「お腹空いた」だったのだ。


 ベッドから抜け出した成瀬が浴室に消えていくのを見送り、ゴロリと寝返りを打って今日の事を考えた。
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