一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「ちょ、薫サン、追い出しですか、これは酷い」

「うるさい、さっさと帰りなさい。じゃあね」

 そうでもしなければ、いつまでも側にいて欲しくてわがままを言いそうになる。
 だから無理矢理に成瀬を追い出した。

 本当に可愛くない私。

 この身には愛嬌というものが生まれつき備わっていないのだろうか。

「これじゃあ、すぐに愛想尽かされてしまいそう」

 溜息はやけに重たく、まるで火が消えたようになってしまった部屋の中で、私は緩慢な動きで着替え始めた。

 もう一人の時間に戻れない気がしている。

 成瀬が帰ってしまっただけで、部屋が一気に寒々しく感じている。

 怖い、と思ってしまう。

 また誰かに心の全てを頼るのが怖い。
 そうして裏切られて一人になった後のやり場のない苦痛を、再び味わうのがとてつもなく恐ろしかった。

 それでも私は成瀬に扉を開くことを選んだ。

「しゃきっとしなさい、柴崎薫」

 鏡の自分にコツンと拳を軽く叩きつけ、もう一度髪を整えてから部屋を出た。

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