一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「私にじっと見られたら何かまずいことでもあるの? まだ隠し事がある?」

「もう勘弁してくださいよ。本当に先輩に隠していたのは悪かったと思ってます」

「三次元の男は誠実さが足りないわね。ちょっとはアプリのゲームでもして見習ったらどうなのよ。成瀬もダウンロードしなさい。王子様がいい? それともセレブ? あ、武将が一番オススメかしら」

「いや、俺は乙女ゲームものとか絶対にダウンロードしたくないですからね!」

 こうやってすぐに可愛げのないやりとりになってしまう自分が情けない。

 抱きしめられているのに、この憎まれ口はどうなのよ、と少しばかり自己嫌悪する。

「ほら、そうやって照れ隠しするから可愛いんですよ、薫サン」

 苦笑しながら成瀬は、私の考えなどいとも容易く見透かしてしまう。

 そうやって私の素直じゃないところを見つけてくれる成瀬に安心している。
 それが少しだけ悔しい。

 ――年下のくせに、成瀬のくせに。

 そう呟いて私は彼に回している手に力を込めた。

 これから先、隣にずっといられますように。
 素直な言葉が、いつか気負いなく言えるようになりますように。


 どうか神様、一寸の喪女にも五分の愛嬌をお与え下さい。


 大切な人に、いつか嫌われてしまわないように。
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