一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「……いつか可愛くなれるように努力するから、それまで見放さないでね」

 成瀬の胸に額を押し当てて、蚊の鳴くような声で告げれば、成瀬はフッと軽く笑った。

「今のままで充分です。先輩の可愛さは俺が知っている。もう充分知っているんですから」

 穏やかな成瀬の声は私の胸に染みこんでいく。

 今まで私の中に足りなかった何かのピースがピタリとはまった音がした。

 誰もが見つけるものかもしれないし、限られた人だけが見つけるものかもしれないけれど、私は見つけた。
 そう確信した。

 自分の最良の相手を見つけた。

「じゃあ、課長に話をしに行こう」

 成瀬に促されて私たちは互いに手をほどいて動き出す。

 稲田さんのことや宗一郎のこと、それに早川さんのことは胸の中に傷を残し、無責任にばらまかれた噂に傷つけられたけれど、成瀬春人という大事な人に出会えたから、私はもう何も怖くない。

 柴崎薫という人間を構成する大切なピースを手に入れたから、もう大丈夫。

 人事課の扉の前で私と成瀬は互いの顔を見合わせる。


 それからゆっくりと扉を開いた。
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