一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「い、いえ……その、先輩……すっぴんに驚いて」

「すっぴん見たことないの? 今までも彼女たくさんいたんでしょ?」

「いや、そりゃ彼女はいましたが……すっぴんを簡単に晒すような子はいなくて」

「あ、そ」

 そりゃ大好きな彼氏になら綺麗な自分を見て欲しいと思うのは乙女心というものだ。

 私は成瀬に対して気兼ねがないから、別にすっぴんを見られても平気であって、彼女と比べられないと思い至る。

「それに先輩、化粧落とすと幼く見えて可愛いですね」

「人のことを観察してないで、早く飲み終わりなさいよ。私はもう寝るから、後は勝手にしてね」

 後輩に可愛いなんて言われても今更嬉しくもなんともない。お目当ての武将かセレブに言われた方がよほど心は浮き立つというものだ。

 すっかり枯れ果てていることを自覚しながら、私はクローゼットから予備の掛け布団を引っ張り出し床に置く。

「フローリングだから明日の朝は腰痛になっているかもしれないけど、同情はしないから。強引に泊まったことを後悔してね。じゃ、お休み」

「無慈悲ですよ! せめて何か下に敷く物を――」

 などと騒ぐ成瀬を横目に私はベッドに潜り込んだ。

「お休み。もう話しかけないでよ」

 冷淡に告げて目を閉じる。


 疲れとお酒のせいで、あっという間に私は眠りに落ちていった。


 成瀬が部屋にいることなど、もう頭の片隅の更に隅の方へ追いやられていた。

< 25 / 255 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop