一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「じゃ、結婚は決まり」

「決まり!? こんな会社の廊下で、世間話的に決まっていいもんなの!?」

「え? やっぱり夜景の見えるレストランで指輪と共にプロポーズが必要ですか?」

「そういうことじゃないけど」

「あ! じゃあ、あれですね、あれ。ええっと……フラッシュモブとかいう、みんなが突然踊り出してプロポーズするやつ!」

「……あんなことをしたら、絞め殺すわよ。首をこう……キュッとね」

「すみません。調子にのりました」

 クスッといたずらそうに笑った成瀬は、やっぱり可愛くて格好良くて、何でも許せそうな気分になってしまう。


「ああ、もう負けたわ」


 大きな溜息がこぼれてしまう。


 どんな成瀬も大好きだ。

 彼と私とならば、何をしたって私の負けは決まっている。

 スマホの中の王子様のように、情熱的で蕩けるようなプロポーズじゃなくたって、私が一番欲しいものを与えてくれるのは、成瀬だけなのだ。


 それでも易々と負けてしまうのはちょっと悔しくて、私もいたずらな笑みを浮かべながら成瀬を見つめる。

「じゃあ、まずはお互いをよく知る為に、今夜は私の部屋に泊まりにくること。命令よ」

「喜んで!!」

 居酒屋の店員のように間髪入れずに返事をした成瀬に、従順な犬が尻尾を振っている姿を重ねてしまうのは、致し方ないだろう。

 それほど成瀬は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
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