一寸の喪女にも五分の愛嬌を
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二十七年も生きてくれば、それなりに人生には山も谷もある。
今の私はどちらかと言えば谷にあるのかもしれないが、それでも毎日は平穏に過ごしているから、まあ多少のでこぼこはあるが平地といったところかもしれない。
今の日々の楽しみは、スマホアプリの恋愛系ゲームをすること。
人に話せばきっと寂しい喪女だと涙されてしまうだろう。
だからこの趣味はひたすら秘密。
朝起きたらまず、アプリを起動する。
今は戦国武将、異国の王子、アメリカのセレブと恋をする三種類のアプリを進めている。
本当は仕事中だってゲームを進めたい。特に特別なイベントが開催されていると、早くやりたくて仕方ないのだ。残業なんてもってのほか。
その日の朝も、武将と王子とセレブと会ってから出勤をした。
「今日からお世話になります成瀬春人(なるせはると)です。人事は初めてですので、どうぞご指導のほど、よろしくお願いいたします」
元気さと爽やかさを兼ね備えている挨拶は、さすが営業を経たからだろうか。それともまだ二十五歳という若さ故なのか。
(二年前の私もあんな風に輝いていたんだろうか)
彼の挨拶を聞きながら、たった二年ですっかりくたびれた気持ちになっている自分に苦笑する。
地方から本社勤務になるといえども、やはりこの中途半端な時期の移動だ、何か事情があるとしか思えない。少々気をつけて接していこうと気を引き締めた。
仕事をしている時には常に愛想良くを心がけている。
周囲を不機嫌にしたところで何一つメリットなどない。心の中で悪態を吐こうとも、いつもニコニコ笑顔。だからその時もいつものように優しい笑みを浮かべた。