一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 少々歩かなければコンビニには行けない。そこまで出るくらいならばタクシー呼んで家に帰ってくれよと思う私は大人げないのだろうか。

 有能な人が来たと感心していたが、認識を今、改めた。


 ――図々しい奴だったよ!! 成瀬春人!!


 こんな奴と絶対に噂になどなりたくない。

「歯ぁ磨いたら即刻帰れぇ!!」

 ビシッと玄関を指さし、私はまるで仁王のような形相で吠えた。

 これ以上、私の領域に男など立ち入らせない!

(やっぱり三次元の男など、徹底的に排除してやるんだから!)

 鼻息荒く、私はもう一度成瀬を睨み付けた。

「えええ、優しくないですよ~。会社の時のように優しくしてください」

「お断りします。あれは仕事上のサービス。プライベートでまで疲れたくないの。成瀬だってそうでしょう? あんたも相当周囲に気を遣っているから、休みの日くらい自分のペースでいたいんじゃないの?」

 そう告げた私を、成瀬はしばらくじっと見つめ、それから優しそうな甘い笑顔を浮かべた。

 一瞬だけ小さく胸が跳ねたけれど、すぐに私は目を逸らす。

 けれど成瀬の声は、容赦なく耳の中に飛び込んでくる。


「先輩……いいよね。やっぱり……好きになったらダメですか?」


 そんなことを甘やかに言う。

 完全なる喪女の私でさえ、わずかに心が揺れそうになる。
 もし少しでも成瀬に対して思うところがあれば、きっと瞬殺だろう。

(恐ろしい奴……。どれだけの女を泣かして来たんだ)

 私は一度目を閉じ、それから成瀬を睨み付けた。

 綺麗なラインを描く瞳に向かって、はっきりと告げる。


「ぜぇぇぇったいにお断り! 気安く私に関わるな!」


 思いの外、大きな声が出てしまった。
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