一寸の喪女にも五分の愛嬌を


***

 月曜日、なんとなく会社に行くのが憂鬱になっていることに、朝、王子との恋を進めながら気がつく。

 それもこれも成瀬のせいだ。

(あの男……相当女慣れしてる)

 思い返せばギリギリと爪でも噛みたい気分になる。

 何が悔しいのか自分の気持ちの整理がつかないで、なんとなく不愉快な気分が抜けない。



 結局、成瀬が泊まった日の朝、無理矢理に奴を着替えさえて追い出した。

 そこまでは良かったのだが、その日の夜、なんと奴は酒と食べ物を手にまた部屋に押しかけてきたのだ。

「ちょ……」

 唖然とする私に、ドアホン越しに奴はのほほんと笑う。

「せんぱ~い、ご飯一緒に食べましょうよ。お酒も買ってきました」

(なんだこれは?)

 状況が把握できない私は、何度かぱちくりと瞬きを繰り返し、渋々扉を開けて成瀬に精一杯不機嫌な顔を見せる。

「あのさ……あんたはストーカーにでもなりたいの? 約束もなしに人の部屋に押しかけて、それって社会人のすること?」

「いや、これは泊めてもらったお礼ですよ。夕食まだですよね? 色々と買い込んできましたよ」

「……なら、それを置いて即刻帰れ」

「まあまあ、そんな冷たいことを言わずに。食事は一緒にした方が楽しいですよ」

 なんだこの押しつけがましい理論は。

 こいつは阿呆か? 阿呆なのか? うん、阿呆なんだな。

 噛んで含めるように言わなければ理解できない、幼稚園児以下の理解力しかないんだな。
 
 社会人として接しようとした自分が悪かったんだな、そうなんだな。

 私は哀れむような視線を成瀬に向け、それからゆっくりと言った。
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