一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「いいですか、よく聞いて下さい。あなたの行動は私にとって迷惑なのです。それに女の一人暮らしの元に気軽に男が来るのはおかしなことです。常識としてわきまえてください」

　懇切丁寧に告げた途端、あろうことか成瀬は笑い出した。

「あはは、イヤだな、先輩。そんな他人行儀にしなくても。とにかくいっぱい買い込んで来たので、とりあえず一緒に食べましょう」

　言いながら、勝手知ったる家のごとく玄関に入り込んできた。

「待て！　他人行儀って、あんたは真っ赤な他人だ！　他人以外の何物でもない！！」

　何を言えばこの阿呆には言葉が通じるのだろうか。

　日本語がダメなのか！？
　それとも自分がこの二十七年間はぐくんできた一般常識的な物がもう通用しない時代になってしまっているのか！？

　絶句している私の脇を通り抜け、いつの間にやら成瀬はテーブルの上に買ってきた総菜を並べ始めている。

「あんたさ！」

　文句を言おうとしたが、チラリと視線の隅に入った総菜を見て私は絶句する。

　それは某有名フランス料理店、たしかミシュランでも二つ星にランクインしていた超高級店の総菜だったからだ。いや、総菜と言うのは正確ではない。

　ケータリングと言うのが正しいだろう。

　ちゃんとした前菜からメイン、サラダにデザートまでついている。しかも高級ワイン付き。

「先輩はワインもいけますよね？」

　成瀬はニコッと笑いながらワインのラベルを見せてくる。その途端、私は目を見開く。
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