一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「もう……降参。こんな美味しそうな食事とワインを前にして、帰れなんて言えないじゃない。一緒に食べましょう」

 言った途端に、成瀬は本当に嬉しそうに無邪気に笑った。


 その笑顔がまた、とても可愛らしく見えて私の胸の奥底が小さくざわつく。


「やっぱり先輩はいいですね」

 何がいいのかさっぱりわからないけれど、とにかくガラスコップとフォークをキッチンから持ち出して並べる。

 ソムリエナイフまで持参していた成瀬が器用にワインのコルクを抜き、芳醇な赤ワイン独特の薫りをさせながら、グラスに注いでくれる。

 高級ワインに似合いもしない、色気も上品さもないガラスコップの縁を私と成瀬はカチリと合わせ、それから高級フランス料理を食べ始めた。

 前菜の一口目から、すでに未知の世界が口の中に広がる。

「美味しい……」

「でしょ? お願いして持ち帰らせてもらったんだ」

 一流企業といえども、成瀬の年齢ならお給料は平均的なサラリーマンとそう変わらない。
 相当無理をして買ってきてくれたのだとわかるだけに、嬉しさと同時に申し訳なさがこみ上げる。

「ねえ成瀬」

「はい、なんですか?」

 サラダに手を伸ばしていた成瀬が顔を上げる。

 憎たらしいほど整っているのに、そのくせ可愛いと思ってしまった自分に苦笑する。
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