一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 珍獣を初めて見て、心惹かれることがある。

 きっと成瀬も今までは女らしく可愛い子ばかりに囲まれていたから、この珍獣・おやじ化女の物珍しさに惹かれているのだろう。


 ばかばかしいことだ。


 成瀬の手からするりと抜け出して、私は食事を再開し始める。

「物珍しさってのは、そんなに長く続かないのよ。ほら、今までいろんな珍獣が流行ったじゃない? えっとクリオネとか二本足で立つレッサーパンダとかさ、全部すぐに忘れ去られてしまってない?」

「まあ、そうですね」

「今のあんたが私に対して抱いている気持ちも、すぐに忘れてしまうから、あんまり軽率なことしない方がいいよ」

 そこまで言ってから、ふと思い出す。

 この成瀬春人の人事異動の理由はなんだったのだろうか。

 地方から本社ならば栄転と言えなくもないが、花形の営業から内勤の人事となれば、微妙なラインだし、中途半端な時期の異動も気にかかる。

(その辺り、やっぱり女絡みかもね)

 こんな風に軽々しく誘いをかける男なら、修羅場があったのかもしれない。

 だから私は心の中で蓋を閉じる。決して開くことをしないと決めた、感情の蓋をもう一度しっかりと閉め直す。

 自分はこんな三次元の手管にはまってしまわないようにと身構えた。
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