一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「誤解してますよ、先輩は。俺は物珍しさで声をかけるほど軽率じゃないですから」

「じゃあ、なんでこんな年上のゲームにはまっている女に声かけてるのよ」

 パクッと口に放り込んだ肉は、驚くほど柔らかく濃厚なソースと相まって、感動すら覚える美味しさだった。

「成瀬、本当に美味しい料理だね。私なんかに奢るのもったいないよ。こういうのは、本命の女の子と特別な日にいただくものじゃないかな」

 美味しい料理に美味しいワインが、私の心を軽くしていく。

 三次元の男と一緒にいることなど、本来ならば御免被りたいところなのに、成瀬が目の前にいることに、なんの疑問ももっていない自分がいることに、頭のどこか片隅で気がついている。

 ただ、そのことは気にかけないように、気がついてしまわないように、私は目の前の食事に向き合っていた。

「俺にとっては特別な日ですよ、今日は」

「どうして? 何が特別なの?」

 問いかけてからワインを一口含み、ゆっくりと飲み下す。
 同じように一口ワインを口に含んだ成瀬がためらいもなく言った。

「だって、俺と先輩が……一緒に寝た日、だからですよ」

 成瀬の発言と同時に、私はグホッ、ゲホッ、と激しくむせた。

 もう少しワインを飲み込むのが遅ければ、盛大に咳とともに吹き出したかもしれない。

 まるでおっさんのようにゲホゲホと女らしさの欠片もない咳をする。
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