一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「先輩、誤解してくれるんですか?」

 いくらか意地悪な笑みに見えてしまうのは、気のせいなのか。

 成瀬がすっと手を伸ばして、フォークを強く握りしめている私に手のひらを重ねる。

「なっ――」

「俺のこと、嫌いですか?」

 前の言葉に重ねるように問いかけてきた成瀬の言葉に私は瞬時言葉を失う。


 これは……ずるい聞き方だ。


 こんな風に聞いてくるなんて、ずるいじゃないか。

 嫌いだと言われない自信があるから聞いているんでしょ? それって小賢しいよねと、そう言ってやりたいのに、言葉にならなくて私は無言で成瀬を見つめていた。

「ねえ、今日も泊まっていい?」

 クラリと目眩がしそうなほど、甘い声。

 どこか甘えた言い方と、そのくせ強引さを含んだ言葉尻に、私の胸がギュッと掴まれたような痛みを感じた。


 サアアと雨の音が部屋に忍び込んでくる。


 やけに成瀬の手のひらが大きくて、ただ重ねられているだけなのに、身動きを封じられたような気がしていた。


「あ……ん……の」


 うまく言葉が出てこなくて、切れ切れになってしまう。

 成瀬は口元を引き上げて、「なに?」と軽く首を傾げる。

 もう答えは知っているよと、そう言いたげな自信に満ちた表情だ。

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