一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 私は一つ、大きく息を吸い込んでから、今度は落ち着いてはっきりと告げた。成瀬の手を思い切り振り払いながら。

「あんたは……どこまで図々しいの? 泊まるとか、バカじゃないの!? 調子にのるんじゃないわよ」

「へ?」

 ポカンとした成瀬に、私はまくし立ててやる。

「あんたは会社の後輩であって彼氏でも何でもないのに、泊まるとか、バカなの? カッコイイ俺が誘えば女は誰でもなびくとでも思って女をバカにしてんの?」

「そんなつもりで言ったんじゃないですよ」

「じゃあ、どんなつもりよ? 彼氏もいない女なら、簡単に落とせるとでも思ってたんでしょうけど、お生憎様。私は武将か王子か異国のセレブしか興味ないから」

「俺のこと、男だって意識してないってことですよね。だったらいいじゃないですか。もうお酒も飲んでなんだか帰るのが面倒になって」


 どうしてかわからない。


 なぜかその時私は、「まあ、いいか」なんてふと思ってしまった。

 成瀬の言い訳に納得したわけでもなければ、昨日のように断るのが面倒になったわけでもなかった。

 それなのに、なぜか成瀬が泊まることに、そこまで嫌悪感を抱かない。いや、むしろ、こんな料理を食べワインを楽しんだ後に、もう少しウダウダと誰かと過ごしたいとさえ考えている自分がいた。
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