一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 ツイと窓の外に視線を外し、私はわざとらしく大きな息を吐き出す。

「まあ、雨も結構降っているし高級料理とワインのお礼も兼ねて、いいわ。許可する」

「え……本当にいいんですか?」

 あっさりと受け入れたからだろうか。成瀬の方が驚いた表情をしている。

 目を見開くとやはり子どものような雰囲気を醸しだし、それが可愛らしく思えてしまう。

「なにそれ、驚くことなの? さっきも成瀬が自分で言ってたけど、あんたを男として意識してないから構わないだけだからね。それと、やましいことを考えたりしたら、即刻追い出すから」

「え~、やましいことってなんですか?」

 わざと尋ねてくる成瀬の笑い顔は、どちらかと言えば喜色満面で、いやらしさなど欠片もない爽やかさだ。別にどうこうしようという下心があるようには見えず、一緒にいても何も起こらないと、そう信用してもいいような気にさせられる。

 それがこの男の手管ならば、私はまんまと引っかかっていると言うことになるけれど……。

「いちいち聞かなければ、そんなこともわからないつまんない大人じゃないでしょう、成瀬。私は成瀬を信用する。だから泊めてあげるわ」

 はっきりと告げれば、なぜか成瀬は嬉しそうに笑った。

「いいですね、先輩のそのクールな対応と言い方。すっげえ好きです」

 ためらいもなく言い切る成瀬の一言は、私の心の中にある、頑丈に閉ざした鍵に突き刺さる。

 二年前に硬く閉ざしたきり、もう二度と開けるつもりのない心の鍵だ。
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