一寸の喪女にも五分の愛嬌を
(この雰囲気に飲まれないようにしなきゃ……)

 そう誓ったはずなのに、二本目のワインを開ける頃には、成瀬が隣で寝ることを許可していた。

「もう面倒だから一緒に寝てもいいわ」

 もう布団を出すのが面倒だ、とか、雨でちょっと肌寒いから風邪を引いても面倒だ、などと言う私のことを、成瀬はどう受け取っただろうか。

「お言葉に甘えます」と可愛い笑顔で返しただけだから、彼の心の中など知りようもないし、あえて知ろうともしなかった。


 私は美味しい料理とお酒に、すっかり酔っていたから……。

 だから成瀬が寝転がる私をそっと抱きしめてきても、気にしない。

 成瀬の胸が私の背中に触れていても、気にしない。


 そう、全ては酔っていたからだ。


(あったかい……)


 人肌の心地よさと伝わる鼓動に、こんな付き合いかたも悪くないなんて、考えながら眠りに落ちた。
 


 私のスペースに踏み込んできた二次元の男。

 今だけが特別なんだ。明日からはいつものように先輩後輩の関係だけに戻る。

 それが当然だと思っていた。
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