一寸の喪女にも五分の愛嬌を
「柴崎君、九月に開く予定のセミナーの計画書、総務から提出がないのかと連絡があったんだけど、どうなっているのかな」

「その件は金曜日にちゃんと回しました。総務の光元さんに渡しましたが」

「いや、その光元君から連絡があったんだよ。金曜日には持って来てくれるはずでしたが、提出忘れですかって。ほら、飲み会の前だったから、楽しみにしすぎて忘れちゃったのかと思ってね」

 全然楽しみではありませんでしたが、と喉元まで出かかった言葉を飲み込む。

 このおやじはそこまで飲み会を楽しみにしていたのかと、半ば呆れつつ、それよりもなぜ回したはずの書類がないと言われているか、全く理解ができず私は首を傾げる。

 確かに金曜日の昼過ぎ、課長の確認を終えた計画書を提出した。

 受け取ったのは総務の光元さん。美人の新人でいくらか派手な感じは受けるが、男性社員にも人気のある子だった。

 絶対に手渡した。それは覚えている。

「間違いなく提出しました。総務課に行って直接話を聞いてきます」

「うん、そうしてくれるかな。柴崎君がそんなミスするの珍しいなとは思ったんだよね」

 さっきは飲み会が楽しみで忘れたかもと言ってたくせに、この課長は本当にお調子者というか頼りがいがない。

 問題が起きた時には課長を通すよりも自分で動いた方が確実なのだ。だから私は課長の前からさがるや、すぐに総務課へ向かった。

「失礼します。人事課の柴崎ですが」

 告げるとすぐに光元さんが立ち上がった。
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